退去費用・原状回復
賃貸 猫 壁紙 退去費用|国交省ガイドラインで借主負担になる範囲
30秒で判断
- ガイドラインは、通常の使用による劣化は貸主負担、借主の故意・過失や通常を超える使用による損耗は借主負担という考え方
- 修繕分担表には「飼育ペットによる柱等のキズ・臭い」が借主負担の例として載っている
- 壁紙(クロス)は6年で残存価値1円となる考え方。ただし契約に特約があればその扱いが先に問題になる
賃貸住宅で猫を迎えるとき、多くの人が気にするのが「退去のときに壁紙の費用をどこまで請求されるのか」という点です。この記事は、国土交通省が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」の記載を、猫との暮らしに当てはめて読めるように整理したものです。個別の請求が妥当かどうかの判断や、交渉の進め方は扱いません。
まず押さえたい前提:ガイドラインは「一般的な基準」
ガイドラインの冒頭には、位置づけが明記されています。民間賃貸住宅の契約は契約自由の原則に基づくため、法令の強行規定に反しない限り契約の内容が有効であること、ガイドラインはトラブルを未然に防ぐための一般的な基準であって使用を強制するものではないこと、そして原状回復の内容や方法は最終的には契約内容と物件の使用状況によって個別に判断されることです。
つまり、ガイドラインに載っている例は「こう判断されることが多い」という目安であり、自分の契約書の内容が優先される場面があります。記事の最後に、契約書で確認すべき点をまとめます。
原状回復の定義:入居時の状態に戻すこととは違う
ガイドラインは、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義しています。そのうえで、借りた当時の状態に戻すことではない、と明確にしています。Q&Aでも、通常の使用方法で使っていた状態のまま返せばよいのが一般的だと説明されています。
損耗の種類は、ガイドラインでは次の3つに分けて考えられています。
| 区分 | 内容 | 費用を負担する人(ガイドラインの考え方) |
|---|---|---|
| 経年変化 | 建物や設備が自然に劣化・損耗すること | 貸主 |
| 通常損耗 | 借主が通常の使用をしていても生じる損耗 | 貸主(賃料に含まれてきたと考える) |
| 故意・過失、善管注意義務違反、通常を超える使用による損耗 | 住まい方や使い方次第で生じたりしなかったりするもの | 借主(ただし経過年数を考慮) |
猫がいる暮らしで問題になるのは、3つ目の区分に当たるかどうかです。
修繕分担表に載っている「ペット」の記載
ガイドラインの別表(損耗・毀損の事例区分)と、契約書に添付する様式の例(別表3)には、借主負担の例として「飼育ペットによる柱等のキズ・臭い(ペットによる柱、クロス等にキズが付いたり、臭いが付着している場合)」が建具等の欄に載っています。
別表の「考え方」の欄には、とくに共同住宅ではペット飼育がまだ一般的とはいえず、ペットのしつけや尿の後始末などの問題でもあるため、柱やクロスに傷や臭いが付いている場合は借主負担と判断されることが多いと考えられる、という趣旨が書かれています。また、賃貸物件でペットの飼育が禁じられている場合は用法違反にあたる、という趣旨も添えられています。
一方で、同じ別表には借主負担にならない例も載っています。たとえば、家具の設置による床やカーペットのへこみ・設置跡、日照によるクロスの変色、壁に貼ったポスターや絵画の跡、画鋲やピンの穴(下地ボードの張替えが不要な程度のもの)は、貸主負担の例です。猫のいる家でも、猫が原因ではない通常の劣化は別に考えます。
壁紙(クロス)は「6年」と「一面分」がキーワード
負担の大きさを考えるとき、ガイドラインが導入しているのが経過年数の考え方です。借主に負担が生じる場合でも、年数が長いほど負担割合を減らすのが適当だとされています。壁(クロス)については、6年で残存価値が1円となるような直線(または曲線)を想定して負担割合を算定する、と別表に書かれています。入居時の壁紙がすでに古い場合は、グラフの出発点を下げて考えるとされています。
負担の範囲(施工単位)についても記載があります。クロスは1平方メートル単位が望ましいとしつつ、借主が傷つけた箇所を含む一面分までは張替え費用を借主負担としてもやむをえない、とされています。部屋全体の色や模様を合わせる費用は、貸主が得る利益(グレードアップ)の側面が大きいため、借主の負担とはしない考え方が示されています。
| 項目 | ガイドラインの記載の要点 |
|---|---|
| 壁(クロス)の経過年数 | 6年で残存価値1円となる負担割合を算定 |
| 負担単位 | 1平方メートル単位が望ましい。毀損箇所を含む一面分まではやむをえないとされる |
| 色・模様あわせ | 借主の負担とはしない |
| 経過年数を超えた設備 | 善管注意義務は残るため、故意・過失で使えなくした場合などは負担が生じうる |
なお、表の最後の行のとおり、ガイドラインは「6年を過ぎたら必ず無料」とは言っていません。経過年数を超えていても、継続して使える壁紙を借主の故意・過失で使えない状態にした場合には、負担が生じることがあるとされています。
特約があると話が変わる
ガイドラインは、強行法規に反しなければ契約に特約を設けることは認められるとしています。そのうえで、通常損耗や経年変化の修繕を借主に負担させる特約は、借主に新たな義務を課すことになるため、次の3つの要件を満たしていないと効力を争われることに十分留意すべきだと述べています。
- 特約の必要性があり、暴利的でないなど、客観的・合理的な理由があること
- 借主が、通常の原状回復義務を超える義務を負うことを認識していること
- 借主が、特約による義務負担の意思表示をしていること
ガイドラインは、特約の例として「クロス張替費用(居室内でのペット飼育を認めるため)」を挙げています。ペット可物件でクロス張替費用に関する特約が付いていることは、想定されているケースの一つです。特約の有効性は個別の事情で判断されるため、この記事で有効か無効かを述べることはできません。
契約前・入居時・退去時に確認したいこと
- 契約書の「ペット飼育」「原状回復」「特約」の条項を読み、費用負担の範囲や単価が書かれているか確認する
- ガイドラインの別表3の様式(原状回復の条件に関する様式)に沿った書面が添付されているか確認する
- 入居時に、貸主・借主が立ち会って「入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト」のような書面で壁・床の状態を記録し、写真も残す(ガイドラインは平面図への記入や写真を併用することを勧めています)
- 退去時の立会いでは、疑問点を質問してから確認のサインをする(Q&Aでは立会いでの確認が負担を決めるうえで重要だとされています)
- 請求書が届いたら、費用の内訳の明細を求めることができる(Q&Aに、貸主には説明義務があり、借主は明細を請求できるとの記載があります)
納得できないときの相談先
ガイドライン第2章は、トラブルの解決方法として、少額訴訟手続や、消費生活センターなどによる相談・あっせん、調停などの制度を紹介しています。行政機関は当事者間の利害について判断を下すことはできないものの、助言やあっせん、制度の情報提供を行っており、相談も一つの方法だとされています。個別の請求への対応は、各地の消費生活センターや、必要に応じて弁護士などの専門家に相談してください。
この記事の限界
ここで紹介したガイドラインは平成23年(2011年)8月の再改訂版で、法的拘束力はありません。新しい版や関連する案内が出ていないか、国土交通省の掲載ページで確認してください。
よくある質問
ガイドラインに従えば、猫による壁紙の傷の費用は必ず借主負担ですか。
ガイドラインの修繕分担表には、ペットによる柱・クロスの傷や臭いが借主負担の例として載っています。ただしガイドライン自体は法的拘束力を持たず、最終的には契約内容や物件の使用状況で個別に判断されるとガイドラインに書かれています。個別の請求の是非はこの記事では判断できません。
壁紙は何年住むと負担が小さくなりますか。
ガイドラインは壁(クロス)について、6年で残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定して負担割合を算定するとしています。入居時点の壁紙の状態によって出発点をずらす考え方も示されています。
ペット可の物件なら、退去費用は借主負担にならないのですか。
ガイドラインは、居室内でのペット飼育を認める代わりにクロス張替費用を借主負担とする特約を「例外としての特約」の例に挙げています。ペット可であることと費用負担は別の話なので、契約書の特約の有無を確認する必要があります。
請求に納得できないときはどこに相談できますか。
ガイドラインは、地方公共団体の相談窓口や消費生活センターなどの行政機関が、助言やあっせん、紛争解決制度の情報提供を行っているとしています。まずはお住まいの地域の消費生活センターなどに問い合わせてください。
出典・確認先
- 国土交通省 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)掲載ページ(確認日2026-10-14)
- 国土交通省 同ガイドライン 全文PDF・平成23年8月(確認日2026-10-14)
- 国土交通省 同ガイドライン 第1章PDF(確認日2026-10-14)
記載内容は最終更新日時点で各出典を確認したものです。最新の情報は各メーカー・機関の公式ページでご確認ください。