火災保険の更新案内で地震保険を付けるかどうか迷ったとき、判断を難しくしているのは「保険金がいくら出るのかが直感と違う」という点です。地震保険は損害額をそのまま補償する保険ではありません。この仕組みを先に理解しておくと、付ける・付けないの判断が具体的になります。ここでは公的資料をもとに、付帯率の実態、保険金の決まり方、保険料を下げる割引制度を順に整理します。
地震保険を付けている人は23年連続で増えている
損害保険料率算出機構が2026年8月25日に公表した2025年度の集計によると、火災保険契約のうち70.8%が地震保険を付帯しています。前年度の70.4%から0.4ポイントの増加で、2003年度以降23年連続の増加、統計開始の2001年度以降で過去最高値です。
| 2024年度 | 70.4% | 前年度 |
| 2025年度 | 70.8% | 23年連続増加・過去最高値 |
付帯率とは、火災保険の契約のうち地震保険を付けているものの割合です。すでに7割が付けているという状態なので、「付けないほうが多数派」ではありません。ただし、多数派だから付けるべきという話ではないので、中身を見ていきます。
地震保険は単独では契約できない
まず前提として、地震保険には次の制約があります。
- 火災保険とあわせて契約することになっている
- 保険金額は火災保険の保険金額の30〜50%の範囲内で設定する
- ただし居住用建物は5,000万円、家財は1,000万円が限度
ここが最初の重要な点です。建物の火災保険を2,000万円で契約している場合、地震保険は600万円から1,000万円の範囲でしか設定できません。地震で全壊しても、建て直しの全額が出る設計にはなっていないということです。
これは制度の欠陥ではなく設計思想です。地震保険制度は地震等による被災者の生活の安定に寄与することを目的としており、住宅の再建費用を全額補償するための保険ではありません。この制度は1964年の新潟地震を契機に検討が進み、1966年の地震保険に関する法律(地震保険法)の制定によって発足しました。
保険金は損害額ではなく「4つの区分」で決まる
ここが最も誤解されやすい部分です。地震保険は、迅速な保険金支払いの観点から、損害の程度を4段階で認定し、区分ごとに決まった割合の保険金を支払う仕組みになっています。
| 全損 | 地震保険金額の100% | 主要構造部の損害額が時価額の50%以上、または焼失・流失した部分の床面積が延床面積の70%以上(時価額が限度) |
| 大半損 | 地震保険金額の60% | 主要構造部の損害額が時価額の40%以上50%未満、または床面積の50%以上70%未満(時価額の60%が限度) |
| 小半損 | 地震保険金額の30% | 主要構造部の損害額が時価額の20%以上40%未満、または床面積の20%以上50%未満(時価額の30%が限度) |
| 一部損 | 地震保険金額の5% | 主要構造部の損害額が時価額の3%以上20%未満、または床上浸水など(時価額の5%が限度) |
家財の場合は別の基準で認定され、家財の損害額が時価額の80%以上で全損、60%以上80%未満で大半損、30%以上60%未満で小半損、10%以上30%未満で一部損となります。
ここから読み取るべきポイントは3つあります。
- 一部損に至らない場合は保険金が支払われません。壁にひびが入った程度では対象にならない可能性があります
- 建物の損害は主要構造部(壁、柱、床など)の損害によって判定されます。内装や設備が壊れても、主要構造部が無事なら認定は軽くなります
- 建物と家財はそれぞれ別に認定されます。建物が一部損でも家財が全損ということはあり得ます
なお一部損には特例があり、主要構造部に損害が生じていなくても、床上浸水または地盤面から45cmを超える浸水があった場合は、水濡れによる汚損や汚物の流入等の損害が発生するため一部損とみなして補償されます。これは津波による浸水を想定した扱いです。
保険料は保険会社で変わらない設計になっている
地震保険は、他の損害保険と比べて公共性が高い保険です。地震保険法第5条では保険料率について「収支の償う範囲内においてできる限り低いものでなければならない」と定められています。
具体的には、次のような特徴があります。
- 損害保険料率算出機構が算出する基準料率を、現在すべての会員保険会社が使用している
- 民間の保険には付加保険料率の中に利潤が織り込まれているが、地震保険には利潤が織り込まれていない
- 大規模な地震で巨額の損害が生じる場合に備え、政府が再保険をする仕組みになっている
火災保険の場合は参考純率が「使用義務のない参考数値」で各社の判断に委ねられていましたが、地震保険はそこが違います。同じ条件なら保険会社による保険料の差は生じにくいため、地震保険部分だけで会社を比べる意味は小さいということになります。比較すべきは火災保険側です。
なお基準料率は、建物の構造(鉄骨造やコンクリート造の建物か、木造の建物か)と所在地によって区分されています。地震リスクは発生頻度が低く支払実績データだけでは足りないため、地震調査研究推進本部が公表している確率論的地震動予測地図の作成に用いられた震源モデルを利用し、被害予測シミュレーションによって算出されています。
比べるべきなのは火災保険側
地震保険の保険金額は火災保険の保険金額の30〜50%の範囲でしか設定できず、保険料も基準料率で共通です。つまり差がつくのは火災保険側。両方を含めた見積もりを複数社から取ると、総額で比較できます。
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地震保険には4種類の割引が用意されています。ここは見落としが起きやすいところで、条件を満たしているのに申請していないケースがあります。
| 免震建築物割引 | 50% | 免震建築物と評価された居住用建物および収容家財。住宅性能評価書等が必要 |
| 耐震等級割引(等級3) | 50% | 住宅性能評価書または耐震性能評価書等が必要 |
| 耐震等級割引(等級2) | 30% | 同上 |
| 耐震等級割引(等級1) | 10% | 同上 |
| 耐震診断割引 | 10% | 耐震診断・耐震改修により現行耐震基準に適合していることが確認された建物 |
| 建築年割引 | 10% | 1981年6月1日以後に新築された居住用建物および収容家財。建物登記簿や重要事項説明書等で確認 |
1981年6月1日は建築基準法に定める現行耐震基準の実施日です。この日以後に新築された家であれば、建物登記簿や重要事項説明書で建築年割引が適用できる可能性があります。マンションを購入した人や新築住宅に住んでいる人は、契約時に書類を出したかどうかを確認する価値があります。
耐震等級については、住宅の品質確保の促進等に関する法律に規定する日本住宅性能表示基準に定められた耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)、または国土交通省の定める耐震診断による耐震等級の評価指針に基づく耐震等級を指します。適用には登録住宅性能評価機関等から交付された書類が必要です。
長期契約でどれくらい下がるか
地震保険には2年から5年までの保険期間に応じた長期係数が設定されています。
| 2年 | 1.90 | 1年あたり0.95 |
| 3年 | 2.85 | 1年あたり0.95 |
| 4年 | 3.75 | 1年あたり約0.94 |
| 5年 | 4.70 | 1年あたり0.94 |
5年一括なら、1年ごとに5回払う場合と比べて係数上は約6%分安くなる計算です。ただし一括で支払う金額そのものは大きくなるため、手元資金とのバランスで判断してください。
付けるかどうかの判断材料
ここまでの内容を踏まえると、判断の軸は次のようになります。
- ローンが残っているか…住宅が損壊してもローンは残る。生活再建の当座資金という位置づけで考える
- 建て直しの全額は出ないと理解できるか…火災保険の保険金額の30〜50%が上限であることを納得できるか
- 建物の構造と築年…1981年6月1日以後の新築なら建築年割引、耐震等級が取れていれば最大50%割引が使える
- 賃貸か持ち家か…賃貸なら建物本体は貸主側の保険。入居者が考えるのは家財の地震補償
- 手元の預貯金で当座の生活を賄えるか…賄えるなら優先度は下がる
特に見落とされやすいのが3つ目です。割引の有無で保険料の負担感がまったく変わるため、「高いから付けない」と決める前に、自分の家が割引の対象になるかを先に確認してください。
よくある疑問
火災保険だけでは地震による火災は補償されないのですか
補償されません。地震や噴火、またはこれらによる津波を原因とする損害は火災保険では補償されないため、これらに備えるには地震保険を契約する必要があります。地震で発生した火災による焼失も地震保険の対象です。
割引は重ねて使えますか
各割引には適用条件と確認書類がそれぞれ定められています。適用のルールは保険会社の取り扱いによる部分があるため、複数の条件に当てはまりそうな場合は契約先の保険会社に確認してください。
水災補償と地震保険はどちらを優先すべきですか
リスクの性質が違うため、どちらが上とは一概に言えません。水災については市区町村ごとの水災等地という客観的な指標が公開されているので、まずそれを調べて自分の地域のリスク水準を把握するのが先です。調べ方は「火災保険の水災補償は外していい?水災等地の調べ方と保険料の差」で解説しています。
賃貸でも地震保険は付けられますか
賃貸の場合、建物本体には貸主側が保険をかけているため、入居者が検討するのは家財の地震補償になります。取り扱いは加入する火災保険の商品によって異なります。賃貸の火災保険そのものの選び方は「賃貸の火災保険は自分で選べる|更新時の断り方と節約額」をご覧ください。
まとめ
2025年度の地震保険付帯率は70.8%で、23年連続の増加かつ過去最高値です。ただし数の多寡ではなく、仕組みを理解したうえで判断する必要があります。地震保険は火災保険とセットでしか契約できず、保険金額は火災保険の30〜50%の範囲、居住用建物は5,000万円・家財は1,000万円が限度です。保険金は損害額そのものではなく、全損100%・大半損60%・小半損30%・一部損5%という4区分で支払われ、一部損に至らない損害には支払われません。一方で保険料は基準料率をすべての会員保険会社が使用しており利潤も織り込まれていないため、会社間の差は生じにくい設計です。だからこそ効くのが割引で、免震や耐震等級3なら50%、1981年6月1日以後の新築なら建築年割引10%が適用できる可能性があります。付けるかどうかを決める前に、まず自分の家が割引の対象かを確認してください。そして地震保険の上限は火災保険の保険金額で決まるため、見直すなら火災保険とあわせて検討するのが合理的です。値上げの背景は「火災保険はなぜ値上がりする?参考純率と改定率の実際」にまとめています。
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